丹羽は歴史の闇に消えていった呪禁道の技を今に受け継ぎ、その内でも特に錬丹術の使い手である。錬丹とは仙道の霊薬を作成する技術で、これを服用する事で肉体を強化し、傷を癒す。霊薬ドーピング野郎…などと陰口を叩かれる事もあるが気にしない。
この肉体は 『 神珍鉄 』 と呼ばれる超常的な物質で構成されており、高い硬度を持つ。また生物の肉体のように傷を再生する能力も備えている。強靭さを増した肉体により、格闘戦の際の戦闘力が著しく上昇している。
同じく警察内のオカルト対策部署である警察庁捜査第四課とは、ライバル的な関係。現場で衝突する事も度々あるようだ。
徒手術技は日本拳法、警棒術技は剣道などを参考に作られている。
なお警邏隊員の内でも上位の強者は、強化のレベルが更に高い  『  勝利の雄叫び(クラモール・トリウンファーリス)  』  を必殺の技として身に着けている。
これまでに数名を自殺や暴行致死に追いやっているが、隠蔽工作に長けている為に世間に明るみにはなっていない。数多の人間を不幸の底に陥れ、破滅させてなお自身は幸せな人生を送り、家族に囲まれて天寿をまっとうする事に強い拘りを持つ。
理外監査室応用警邏隊の複数名がこれを会得しているが、鎮圧術とは銘打っていても、やはり身体能力に大きな差があるサーヴァント相手では中々勝利は難しいようだ。それでもサーヴァントと正面から白兵戦を行えるのは、特筆すべき点である。
刀鍛冶である正宗は、警察庁が独自入手した小聖板のレプリカを以って召喚したサーヴァントの一人。対サーヴァント戦における警邏隊の切り札が  『  警視流  』  だけでは心許ないと判断した上層部により、隊員の更なる戦闘力向上を目指して名刀正宗の量産を依頼した。元より正宗の刀は、元寇で攻めてきた蒙古兵との戦闘を考慮して打たれたもの。日本の地を汚す夷敵を討つ為ならば…と、快く承諾してくれた。
蛇やガマガエルなど様々なタイプがいるが、丹羽が操る金蠱獣の中で最も巨大で怖ろしいものは、金蚕蠱と呼ばれる巨大な二匹のカイコ。2mもの巨体を持ち、口から吐く強靭な黄金の糸は猛毒を備え、これに絡め取られると身動きが取れぬままに肉が溶け崩れてしまう。丹羽の心強いボディーガードにして切り札。
警察官でありながら、その立場を利用し外道の行いを愉しむ丹羽。
ところが、これまで完璧に隠蔽してきたはずの悪事―――――理外犯罪者への拷問、逮捕時の暴行などを、
同僚の円谷に勘づかれてしまう。口封じに彼の殺害すら考えた丹羽だったが、
しかし円谷はその殺意を見抜いた上で、自らの正体が妖怪・吹螺坊である事を明かし、
丹羽ごときの力で自分をどうこうなどできはしない、と嘲笑った。
予想外の展開に慌てる丹羽だったが、円谷…いや吹螺坊は思いもかけぬ提案を口にする。
―――――もし自分に協力してくれるのであれば、丹羽の行いを表沙汰にはせず、
それどころか一層サディスティックな欲求を叶えられる場を提供しよう…と。
脅迫めいた物言いだったが、元より丹羽に選択肢などない。信用など置けぬままに、これに頷くより他無かった。
だが待っていたのは、まさに彼にとっての理想の場、桃源郷。
理外犯罪者として捕らえた混血、あるいは人外の女性達を、刑務所の特別房に収監するとして
密かに連れ出し…とある高層ビルの一室にて、サディズムのはけ口として嬲り尽くす宴を開く。
快楽を求める政財界の大物が集う、その秘密クラブの創設に丹羽は協力させられたのであった。
驚いた事に、クラブ員の中には警察幹部の顔すら見受けられた。
多くの同好の士達と懇意になり、はからずも丹羽は権力の後ろ盾を得るに至る。
自らもそのメンバーの一員に加入し、上からのお墨付きで欲望を解放できる場を与えられたのだ。
また丹羽は彼らの望む女性達に、肉体構造を変異させる霊薬を投与、人にあらぬ理外犯罪者へと仕立て上げ、
捕らえて饗宴の贄として差し出した。美しい姿そのままに魔物の生命力を与えられた娘達は、
容易に死ぬ事も許されず、延々と虐げられる苦しみを味わわされるのである…。
これまで隠蔽工作に苦慮していたのが馬鹿馬鹿しくなる程に、丹羽は存分にその嗜好を満たした。
けれど、日常ではあい変わらず良き夫、良き父、良き同僚を演じ続ける。
犯罪者を捕らえた手で、学校で良い成績を出した娘の頭を撫でるその同じ手で、
丹羽は泣き叫ぶ女達の肉を抉り、骨を折り、皮を剥いだ。本当に充実した、満たされた日々だった。
―――――だが、そんな夢のような時間も、遂に終わりが来る。
有り得ない事だった。この秘密の場所は、決して誰にも知られてはいないはずだった。
いや例え知ったとて、二重三重に警護されているこの場所に、踏み込める者などいるはずがない。
血飛沫を浴び、楽しげに笑う丹羽が背後に気配を感じて振り返ると…
そこには憤怒の形相を浮かべた、理外監査室応用警邏隊の同僚、森宗広の姿があった。
その後の事はよく覚えていない。まるで犬科の獣のような姿に変じた森にしこたま殴られ、
血反吐を吐いて地に叩きつけられた所までは思い出せる。
凄まじい怒りと、圧倒的な暴力だった。森が獣人であるという噂はどうやら真実であったようだ。
…しかし確かに肋骨がひしゃげ、内臓が潰れる音がしたはずなのに、何故自分は生きているのか。
朦朧とした意識の中、何気なく自分の手を見ると…金色の輝きが目を射る。
ああそうか、死の間際に懐に忍ばせておいた呪禁道の秘薬―――――金丹を咄嗟に服用する事で、
金属の肉体を手に入れていた…という事か。未完成品で使用を躊躇っていたが、なんという僥倖だ。
怪我も薬の効果で治癒されつつある。全身に新たな力が漲る…!
自分は生き延びた。これはまだまだ生き続け、己の欲する所をなせ、と神が言っているに違いない。
あの楽園はもう無い。しかし決して絶望はしない。きっとまた次の楽園が自分を待っている。
丹羽は自身を奮い立たせ、クラブメンバーの死体が散乱する惨劇の場を後にした。
…殺されたクラブのメンバー達は大物揃いだ。ここでの催しが表に出れば、世間がひっくり返る。
取りあえず緊急時の非常回線を使い、証拠隠滅を生業とする始末屋に後の事を任せる。
この大事な時だというのに、吹螺坊とは一向に連絡が取れない。さては既に森に殺されたのだろうか。
だが、森はしょせん一警察官。一方の自分は多くを失ったとはいえ、まだ闇の人脈の繋がりを残している。
例え森が自分の秘密を上司に訴えたとしても、もみ消すどころか奴の方を破滅させられるだろう。
第一、大量殺人を犯した人外の言い分を、誰が信じるものか。ただでさえ日頃好人物を演じている丹羽とは、
信頼度が違う…。
獣狩りだ。自分をこんな目に合わせ、楽しみの場を奪った森 宗広。理外犯罪者として必ず捕らえ、
生き地獄を味わわせてやる…。満面に嗜虐の色を浮かべ、丹羽は微笑んだ。
【セリフ】
 『 やあやあ森くん。その節はお世話になったね。これからたっぷりと、仕返ししてあげるからねえ。 』 
 『 君が私を憎もうが恨もうが、そんな事は無関係に、私はこれからもずっと幸せに生きてゆく。ずっとね。 』 
 『 わかってないね。君たちはもう、理の外にいるんだ。条理も不条理も、おまけに理不尽もないんだよ。 』 
 『 何もかもがドロドロと溶け合う曖昧な世界…。人を傷つける事で、私は自己というものを感じていられる。 』 
 『 二廷の春間に飴切だと…? どこまで感づいている。早めに消しておいたほうがいいかもしれないなぁ。 』 
 『 君を見ていると、まだまだ自分は人間の範疇だって安心できるんだ。ねえ、人間失格くん。 』