遥かいにしえには神霊・聖霊・竜や神獣の子を宿した者も多くいたそうだが、現在の乙女達は力も衰え、そこまでの受胎力を有してはいない。ラーヘルとその母は一族の中でも格別高い能力を持ち、下位自然霊や魔獣との間に子供を成す事ができる。
その力は滅びつつある種族の子孫を繋いだり、強き力を持った超人を誕生させたり、霊に人としての肉体を与え物理的に封印したり…と様々な形で周りに恩恵をもたらしてきた。また乙女達は元来霊を引きつけやすい体質であり、慰み者にしようと寄ってくる悪霊などに狙われ続ける運命を背負う。なので大抵は何らかの魔術組織に所属し、その庇護を受けている場合が多い。
なおサーヴァントとの間に子を成せるかどうか、現段階では不明である。
二人の望みは、何の気兼ねも無く共に暮らせる安住の場所を得る事。だが魔獣の本性が日に日に強くなり、成長して巨大化してゆく兄をどうすればよいのか…と悩むラーヘル。この上は一刻も早く有力な魔術組織を見つけ、二人の保護を求めなければならないと決意。聖板戦争はそれらの組織に自らの有用性をアピールする、良い機会と考えた。兄を守る為ならば、概念受胎を売り物にしても構いはしない…どんな忌まわしい邪霊や獣にもこの身を捧げよう。とまで考えている。
ただし、すべては母の仇討ちを成し遂げてからである。
構成員は大地の呼びかけに目覚めたと称する人間を中心に、人狼や魚人などの亜人種や精霊使い、知恵ある獣、果ては死徒や魔との混血までが所属していた模様。設立当初は星に災いをなす人類と戦う組織だったはずが、次第に非人類種族が人間に取って代わって霊長となる為の集団と化し、明日の地球の覇権を巡って別種族同士での仲間割れが絶えなかったという。
組織の初期の支援者リストには二十七祖の一人、財界の魔王の名も見受けられるとか…。
ちなみに戦闘時は甲羅に乗った彼女の周囲を無数の棘が囲み、防御するので心配はない。
霊の中には受肉による復活を望む者も多いが、高位の霊体は肉の檻に閉じ込められる事で霊性を低下させられるのを嫌がる者も多い。肉を備えれば、物理法則に従わざるを得なくなるからである。こうして生まれた子供はそのまま身体を檻として霊を封じ続ける事となるが、大半は惨たらしく冒涜的な儀式のもと殺害されて強烈な死のイメージを刻みつけられ、宿った霊ごと消滅させられる。
実は第四次聖板戦争に参戦していた国巣キャラ・ウィリアム=ロックフォードの父も、そうして生まれてきたものの一人。
ヨーロッパ各地に散らばるエキドナ女神の裔、 『 蝮の乙女 』 一族の出身。ラーヘルの先祖は流浪の旅の末にドイツのハルツ山中に辿り着き、そこで千年あまり暮らしていた。近代以後は山を降りてゴスラーの町に居を構え、古来よりの血脈を伝え続けていたのである。
ところが彼女の曾祖母の代から乙女の力が強く発現しだし、有象無象の霊を招き寄せ始める。曾祖母は色欲に狂う悪霊達に幾度となく身を汚され、形無き肉塊を産み続けては衰弱死してしまったという。ラーヘルの祖母はその母にも勝る能力者であった為、何とか我が身を守ろうと教会に逃げ込んだ。だがその力を忌避され、迫害を受けてしまうのだった。
そんな祖母を救ってくれたのは、とある魔術結社に属する若き魔術師…後の祖父である。祖母と母はしばらく祖父の属していた魔術結社によって悪霊の群れから守られていたが、組織の衰退が始まり有力な魔術師達が去るや祖母はこれを見限り、自分と娘を守れるだけの力を持つ者を求めて幾つもの男と組織を渡り歩く。捨てられた男達はその不実を詰ったが、愛する娘を、母を救いたいの一心から出た行動であった。
…その果てに、辿り着いたのが 『 大地の使徒 』 。そこでラーヘルの母は組織の戦力強化の為に魔獣の子を産み、それを操る初代陸殲騎となる。その数年後には組織の構成員との間にラーヘルが生まれたのだった。
しかしその母も魔術組織 『 至天の導手 』 との抗争の際に死亡。ラーヘルは魔獣である兄を母から受け継ぎ、二代目陸殲騎として 『 至天の導手 』 に復讐を誓うのである。
…とは言え、彼女はまだ13歳の少女。その考えはあまりに頑なで偏狭、そして浅慮である。
異形の獣である兄を愛するあまり、その存在を許容しない人間の世界を激しく憎んでいる。
※  『  至天の導手  』  の設定はシダ氏製作キャラからお借りいたしました。