ガルダンド 背景

【人食い馬の伝説】

軍神アレスとアマゾネスの女王との間に生まれたディオメーデースは、残酷だが強き戦士。
彼は四頭の獰猛で巨大な人食い馬を飼っており、異国人を殺しては餌として与えていたので、
周辺国からは大いに怖れられていた。
この人食い馬はトラーキアに住んでいたという北風の神・ボレアースが牝馬に産ませたもので、
  『  貪り尽くす者 』 の異名を持つ父の性質を受け継ぎ、非常に凶暴であったとされる。
しかし風神の子ゆえに、風のような速度で地を駆ける事ができた名馬であった。

だがある日やってきた一人の英雄によって、悪王ディオメーデースは討ち取られる。
その英雄の名はヘラクレス。十二の功業の一つ、 『 ディオメーデースの人食い馬 』 の有名な下りである。
その後、殺されたディオメーデースは悪行の報いとして人食い馬の餌とされ、
主人が死んで大人しくなった馬達はヘラクレスの手でミケーネ王エウリュステスに献上。
王が馬を野に放つと、すぐ猛獣に食い殺されてしまった…と伝えられている。

この伝承とは別にエウリュステスはこの馬を厩舎で育て続け、
その飼育はアレクサンダー大王の時代まで続いた、と言う説も存在している。
アレクサンダー大王の愛馬として知られるブケパロスは凶暴な人食い馬であったとの記述が見られ、
ディオメーデースの馬の末裔である可能性が高い。

この他にもシーシュポスの子・グラウコスを食い殺した馬のように、古代ギリシャには幾つかの人食い馬伝説がある。
これらは実際にそういう馬種がいたというよりも、足の速い馬を作り出すには人肉を与えるとよい…という当時の迷信が生み出したものであると考えられる。

 

 

【魔馬匠・グイノッティ一族】 

馬飼いの一族グイノーテス。彼らは北東の風を司る下位の風神・アネモイの血を受けた子孫である。
北風の神からその子である魔獣・人食い馬の世話役を代々仰せつかり、長きに渡って忠実に職務を全うしてきた。
始めはトラーキア王ディオメーデースに仕え、王がヘラクレスに殺された後はミケーネ王に仕える。
ミケーネが滅びると変わって台頭してきたドーリア人の傘下に下り、彼らが打ち立てたマケドニア王国に仕えた。
アレキサンダー大王の御世には数多の魔馬を献上し、その覇業の一翼を担う活躍を見せた。

その後も無数の王や英雄英傑に魔馬・名馬を提供し続け、やがてヨーロッパの戦の陰にグイノーテスあり、
とまで囁かれるようになる。
アレキサンダーの愛馬ブケパロスを始め、ローマ皇帝カリグラのインキタトゥス、
レコンキスタの英雄エルシドのバビエカ、ナポレオンのマレンゴ、
これらは全てグイノーテスの作り出した魔馬の血筋である。

イタリアに移り住み、ヴェネツィア共和国の貴族位を得て、
家名をグイノッティと変えてからも彼らの名声は高まる一方。権力者達は争ってその魔馬や名馬を買い求めた。
かの馬達はたった十数頭で千騎にも勝る働きを見せ、背に乗せた騎兵達を戦場を駆ける死神へと変えたのである。

その力を我が物にしようとした魔術師によって、グイノッティ家が乗っ取られる事態も起こりはしたが、
結局は魔術師の手によって薄まっていた魔獣の血を呼び起こされ、強力な魔馬を誕生させる事ができた。
家は益々富み栄え、黄金期を築く事になる。

…しかしその栄華も遂に終わりを告げる。当主に就いた件の魔術師が事故死した後は優れた馬も生まれなくなり、
近代戦においては銃火器の的となる騎兵の重要性も低下。もはやグイノッティの馬を高額で買い取るような者もおらず、
一族は金策のためにイタリア競馬界を創設する。
これが起死回生の一手となり、今日まで生き延びてきたグイノッティであったが、
2000年代に入って折からの欧州不況の影響を受け、資金源だったイタリア競馬は財政難で閉幕。
膨大な借金だけが残り、グイノッティ家は破産に追い込まれる。

通常の馬よりも飼育費がかかり、定期的に人肉を食べさせる必要のある魔馬達は、餌不足による空腹で理性を失い、
共食いを始めてしまった。結果、一匹の子馬を除いて全頭死亡する。
親族達や使用人も散り散りになり、ここに古代から続いてきた一族は破滅に至るのであった。

 

 

【中興の祖・魔術師ドルメロ】 

ガルダンドの先祖である魔術師ドルメロは生物の血統を操作し、配合を繰り返す事で神代の神秘を再現、
そこから根源に至ろうと試みた。目をつけたのが馬である。
16世紀イングランドを発祥とする近代競馬はその後瞬く間に欧州各国に広まり、
各地の貴族馬主たちは競って最強の名馬を作り上げようと配合を繰り返していた。
これと同じ事を魔術的に行い、やがて神獣クラスの神馬を産み出せるのではないかと考えたのだ。

ドルメロは魔術を用いて名門グイノッティ家の娘を誑かし、
結婚して当主に納まると、その豊富な資産を使って馬主となる。
グイノッティ家は伝説の魔獣・人食い馬の血を引く馬を飼っている事を、ドルメロは知っていたのである。

その後二十年をかけて魔馬の血統操作を行い、なんとか薄まっていた血を純化し、
祖である魔獣へと先祖返りさせる事に成功。
これに自信をつけたドルメロは、欧州各国を探して見つけ出した北欧神話の神騎・スレイプニルの子孫、
アキレウスの愛馬である不死の馬・クサントスの子孫、
ドラゴンと馬の合いの子である西洋版竜馬・マウモリスクの子孫、
…などを次々と発見し、彼らを掛け合わす事で最高の神馬を作ろうとした。

だが志半ばで不慮の事故(実は家内の者による暗殺)を起こし、
ドルメロはディオメーデース王のように自分の馬に食い殺される。

残されたグイノッティの者達はなんとかドルメロの意志を継ぎ、神馬を作り出そうと数百年を掛けたが…
ドルメロの魔術刻印が継承されずに終わった事もあり、
没落の現在に至るまで、結局そこそこ強力な魔獣である馬を作り出すに留まっている。
魔術師でもない彼らを突き動かしていたのは、根源への到達などではない。
ひたすら愚直に先人の業を継ぎ、次の世代に伝えるというただそれだけの一念である。

 

 

【まとめ】

神代の頃より魔獣を育て続け、ヨーロッパ戦史に大きな影響を与えたその血筋。
そして馬を使って根源に辿り着こうとした、魔術師の妄執。
この二つが融合した事で、グイノッティの家は完全に馬に取り憑かれてしまった。
他の魔術師達の間では、過去の栄光に縋ったその馬狂いを嘲笑され、
馬飼いグイノッティ、飼い葉桶のグイノッティと揶揄されていた。
…もっと早く、彼らは馬への執着から離れられていれば良かったのかもしれない。