――完全敗北。
彼女はこの戦果をそう受け止めていた。
双子の妹・依斗子と連携しての、時空の歪みの調査。
半ば漠然とした目的で降り立った石枝市にて、
図らずも聖板を手にした事から、卜部日紀はサーヴァントを従える「マスター」となった。
勝者の望みを叶えるという聖板に、かつての平穏を望むサーヴァント。
その願いを実現すべく、そしてこの街で出会った人々の暮らしを守る為、
戦争の早期決着を目指して奮戦する。
……しかし、その想いは突如現れた異形のモノによって打ち砕かれる。
例えるならば、途方もなく巨大な板。
“それ”による街の破壊と蹂躙は、彼女の力では到底防ぎ切れるものではなかった。
そして彼女は“それ”に立ち向かうもまるで歯が立たず、深手を負う。
姉の身を案じた妹によって時空の狭間から引き上げられ一命を取り留めるも、
サーヴァントと引き離されて契約も強制解除され、
自分の決意は何も果たせぬまま痛恨の途中棄権となった。
常人ならば数十回は死んでもおかしくないダメージを全治4週間で済ませられたのは、
ひとえに彼女の「氣」による並外れた頑丈さと回復力の賜物であった。
だが身体以上に心の傷は深刻で、氣の不安定さは傷の回復を遅らせた。
それでも彼女が明るさを失わなかったのは、姉としての意地と見栄。
前より嘘つきになっちゃったかな、と、かつての戦いを思い返し独り言ちるのだった。