《呪われしディオダディ荘の一夜、その衝撃の真実!!
詩人バイロンは死徒だった!!》

―――時に1816年5月のこと。所はスイスのレマン湖のほとりに立つ、うら寂しい別荘。
雨の降りしきる陰気なある夜、そこに集った五人の男女が怪談話に花を咲かせていた。
放蕩詩人・バイロン。その主治医で同性愛の相手ポリドリ。詩人シェリーと駆け落ち相手の作家志望メアリー。 メアリーの妹でバイロンの愛人クレア。
彼らは退屈な夜を紛らわす為に、一人ずつ怪奇な物語を書こうと提案した。バイロンらは途中で投げ出してしまうが、
ポリドリとメアリーは物語を書き続け、後に出来上がったものこそそれぞれ 『 吸血鬼 』 そして 『 フランケンシュタインの怪物 』 である。
これこそが後の世に 『 ディオダディ荘の怪奇談義 』 と呼ばれる、ホラー史に名を刻む伝説の夜だったのだ。

さてこの夜、バイロンが書きかけていたのは 『 断片 』 という題のそれこそ断片的な短い詩文である。
その詩は途中で終わっているが、作中にはダルシマー弾きの乙女なる謎の妖女が登場している。
 『 気をつけろ! その炯々たる眼、蠢く頭髪! 三重に取り囲み、畏怖もて瞳を閉じよ。彼の者は甘露を食し、楽園の乳を飲んだのだから。 』 
この詩を見せられたポリドリは、このなんだかよく解らない存在にインスピレーションを受けて 『 吸血鬼 』 を執筆するのである。
こういった経緯から、バイロンは二重の意味でも吸血鬼誕生には欠かせない存在であったと言う事が理解してもらえるだろう。
しかし、バイロンは単なるイメージ元というだけでもなかった。何故ならば、彼は―――――。
本物の吸血鬼、すなわち死徒だったのだから!

ホラーの出発点となったディオダディ荘の夜には、それに相応しい妖しげな噂が囁かれている。
怪談話の最中に何やら怪奇現象が起こったとか(実際シェリーが精神を失調し気絶騒ぎを起こしている)、
この呪われた夜を過ごした者やその身内が、数年以内に不幸な最後を遂げている…などなど。
今、それらにもう一つの怪奇を付け加えよう。詩人バイロンは死徒だったのだ。
 『 吸血鬼 』 作中で語られた事は脚色されているが真実が含まれており、ルスヴンはモデルどころかほぼバイロン本人。
ディオダディ荘の夜にて自らが人外の存在である事を友人達に明かし、皆はその秘密を背負って生きる事になった。
しかしポリドリは彼の吸血行為に加担してきた罪悪感から、バイロンの悪行をそのままに 『 吸血鬼 』 の作品として現し、
本人の怒りを買ってしまう。友人の恐ろしい正体を隠し続ける事に耐えられず、ポリドリは服毒自殺を遂げる。
またクレアとの間に生まれたバイロンの娘アレグラは、生殖能力の低い死徒にとっては奇跡的な人との混血であったが、
聖堂教会の代行者に存在を察知されて始末され、わずか五歳でその生を閉じる。
ちなみにもう一人の娘、エイダはバイロンが未だ人間であった頃にできた子であるので、死徒ではない。

バイロンは冒涜的な死徒の力を、解放の力と考えた。自由な魂を人の鋳型に嵌め込んだ、神への反抗の力だと。
この力があれば、未だ圧政に苦しむ自由なき世界の人々を救う事ができる。独立革命を起こせる。
まずは当時、オスマン帝国によって支配されていたギリシャを、吸血鬼としての力で解放しようとしたのである…。
だがあえなくも、戦争中彼は味方である筈のギリシャ正教のバンパイア・ハンター達に討たれてしまう。
キリスト教徒にとっては異教徒の支配以上に、吸血鬼の、死徒の存在は忌むべきものだった。
その死は世間では病死として公表され、長らくギリシャの人々にとっては英雄として語り継がれる事になる。

自由を愛した情熱の詩人バイロン。乙女を誑かし血を啜る冷血漢ルスヴン。
違うように見えても、やはり同一の者の異なる側面。ジキルとハイドのように鏡合わせの存在なのだ。

※注意…すべて国巣の妄想設定です。興味のある人は、バイロンが吸血鬼だった…という設定の『真紅の呪縛・ヴァンパイア奇譚』という海外小説を読んでみよう。