-憎まれ仔-
ギリシャ神話に登場する、盗みの名手。様々な伝承や英雄叙事詩にちょいちょい現れる“名脇役”。
伝令神ヘルメスと、半神戦士ダイダリオンの娘キオネーの間に生まれた息子。この出生にあたっては、この美しき娘キオネーをヘルメスとアポロンという二神が奪い合った末に、それぞれの神との間に1人ずつ子が設けられたという、何とも殺伐としたエピソードがある。
父神ヘルメスの“薫陶”を受け、アウトリュコスは窃盗と偽誓の極意を極めたという。その業たるや、自身の姿形を変える、触れた物を目に見えなくする、獣の毛色の黒白をあべこべに入れ替える、有角獣から無角獣に角を挿げ替える、等およそヒトの盗みや騙しの常識を大いに逸脱した代物であった。一体何を教えたらこうなるのだ。
なお伝令神ヘルメスは盗人や詐欺の神としても知られるが、それ以外にも商売、交易、競技、雄弁、音楽、発明と、ありとあらゆる文明の叡智を司る神でもある。
…何というか、悪いところばかりが親に似たものだ。
さて、数々の盗賊稼業でギリシャ中に悪名を轟かせた彼には、意外な人物との繋がりがある。
十二の試練の勇者ヘラクレス。
トロイア戦争の智将オデュッセウス。
英雄船団アルゴナウタイの筆頭イアソン。
ギリシャ神話サイクルにおけるベストセレクションとも思えるこの英雄の面々に対し、オデュッセウスとイアソンには祖父として、ヘラクレスにはレスリングの師として、アウトリュコスは“薫陶”を授けた。
(前者2人などは特にその狡猾さが如実に受け継がれている。誰かこの負の連鎖を止めてください。)
叙事詩「オデュッセイア」には、オデュッセウスの名がアウトリュコスの異名「憎まれ仔(オデュッサメノス)」にちなんで名付けられた、との記述があったりする。