始めはミクロン単位の微細な穴を穿つに過ぎなかった攻撃は加速度的にその威力を増していく。
針孔から鉛筆大、拳大、頭大。
急速にサイズを大きくしていくその貫通痕は、市内にとどまらず全世界で容易ならざる災禍となりつつあった。
だがそれに気づいた時点ですでに手遅れであったのだ。
その真名とは「ブラックホール」。
それは通常超高密度大質量の天体である。
即ち、自身の重力によって生じる「事象の地平面」、その半径よりも自身の直径が小さく圧縮してしまった物体は、
その内側に入り込んだものを光ですらも逃さない、空間に開いた黒き孔と化すのである。
それは超重力により近づいたものの全てを飲み込む。
その中心たる「特異点」ではすべての物質がサイズ0に圧縮され、密度、重力が無限大と化しており、
物質のあらゆる属性(例えば、物質と反物質の違いのような、物理法則を支える根本的属性)は無に帰する。
今回、“妖術師”によって出現した「それ」は勿論天体のような“巨大”なものではない。
自然界においては巨大な恒星が爆裂して最期を迎える際に生み出されるといわれるブラックホールだが、
粒子加速器やレーザー核融合炉などによって地球上でもごく微細な――素粒子サイズのブラックホールを
人工的に生み出せることが知られている。
これがマイクロブラックホールである。
通常であれば、必要なエネルギーそのほかの問題から、粒子加速器のような巨大な設備を用いて
やっと一瞬で蒸発するようなサイズのそれをわずかに生み出せる程度に過ぎない。
だが「聖板戦争」であれば。
恐るべき魔術と英霊とが死力を戦わせるこの舞台であれば…
“妖術師”は魔術とサーヴァントの喚び込む厖大な力を元に、
とあるサーヴァントを爆縮炉として用い、人類の持つ「ブラックホール概念」を触媒として、
無数のマイクロブラックホールを召還生成したのである。
「それ」は誰にも気づかれること無く生じると同時に周囲の物質を「喰い」ながら地球の中心へと落下、
やがて地球の自転に引き摺られてその公転軌道に乗り…
地上においてあらゆるものを貫通し始めたのである。