16世紀初めにイタリアのラヴェンナで生まれ、かの地は程なくして戦禍に巻き込まれた。まさしく災いの先触れたるこの冒涜の異形を、当時の大衆は忌み怖れたという。
 『 騎英の手綱 』 などとは異なり、体当たりの衝撃よりも身に纏った聖炎によるダメージで敵を焼き尽くす技。使用中は神の加護により防御力が数倍化、その様はさながら神罰を代行する御使いのようである。しかしその怒りの力の本質は、中世にプロテスタント宗派がカトリックに抱いたものが根幹となっているので、人類そのものを罰しようとする黙示録の天使ほどのパワーはない。
時を経るに従い、ラヴェンナ・モンスターは不吉の前兆というよりも、人に対する神の怒りを表したキャラクターとしての側面を強めてゆく。宗教改革を起こし、プロテスタントの源流を築いたマルティン・ルターは、自著の挿絵にこの怪物の絵を使用して神の怒りを民衆に訴えた。世俗化し、堕落したカトリックと教皇を糾弾するシンボルとしたのである。
事実この怪物が誕生して数年後の1512年、ラヴェンナはフランス軍に占領され略奪を受ける。これに対して教皇ユリウス2世はスペイン、イングランド、神聖ローマ帝国と神聖同盟を結成し、同地の奪回を試みるが敵わず敗退するのだった。世に言う 『 ラヴェンナの戦い 』 である。
…本当に怪物の誕生は、この戦争を予知していたのだろうか? 実は当時実際にラヴェンナで奇形児が出産されたという記録が残っており、高名なボローニャ人占星術師が疫病と戦争の兆候であると解釈。教皇ユリウス2世はこれを怖れ、赤子を餓死させよと命じた。この噂を聞きつけたフランス王ルイ12世は、自身の領土的野心の正当化に利用しようと思い立つ。二十年ほど前より、フランスを統治するヴァロワ家と神聖ローマ・スペインを統治するハプスブルク家はイタリア支配を巡って対立していた。教皇がハプスブルク家に肩入れする事を苦々しく思っていたルイ12世は、ラヴェンナで怪物が生まれたのは彼の地で悪徳が万延し、聖職者が堕落したせいであると指摘。我々フランスが神に代わり、穢れたラヴェンナとイタリアを清め懲らすという名目で出兵するのである。
ラヴェンナで生まれた子はおそらくただの哀れな奇形児であったのだろうが、迷信深い人々と権力者の思惑によって冒瀆の怪物へと変えられてしまった。月並みな表現で恐縮だが、ラヴェンナ・モンスターを作り出した人間達こそ本当の怪物だったのかもしれない。
スキルにある通り、すべての攻撃に精神攻撃の追加効果があるなんとも厄介な相手。三殲騎の乗騎の内、他の二体が幻獣・魔獣でこのモンスターだけがサーヴァントである。