海坊主、海和尚、シービショップといった僧形の海の怪異の一種であり、近年になって封じられるまで日本近海で数々の海難事故を起こしてきた。遥か南方の海にある九頭龍宮で眠りについているという 『 魔海龍王 』 のしもべを称し、天地の狭間に漂う邪気を吸収して龍と化す事を目的とする。その正体は 『 千年法螺 』 と呼ばれる大ホラ貝と、千年前に海に沈んだ悲運の遣唐使である僧が融合したもの。数々の術と海の妖怪を操る。
余談ながら、世界各地に見られるこうした海の僧侶の正体は、ジュゴンなどの海牛類だと思われる。
キリスト教の奇跡を裏返しにした黒魔術のように、その術の形式は法力をそのまま裏返しにしたもの。ゆえに両者はよく似ている。吹螺坊はかつて台密を修めた天台宗の僧であったので、その法力は死後妖怪になってから外法力となった。
結界術、金縛りなどがその内容。
吹螺坊の妖怪仲間である蘭麝(らんじゃ)は、石つぶてを得意とする妖怪なので、もし戦った場合相性が悪い。石を液化させられてしまうのである。
【波術】
○掬い波(すくい波) …高速の小さな波をぶつけ、船をひっくり返す。
○仇波(あだなみ) …沸き立つ水壁で相手の攻撃を受け止める防御技。
○細波返し(さざなみがえし)…鏡のように煌く水壁で相手の魔術を跳ね返す。マホカン○。
○荒磯波(ありそなみ) …周辺の海を大時化のように荒立たせる波による結界術。
○潜ぎ波(かつぎなみ) …意思を持つ人の手のような波が、相手を波間に引きずりこむ。
○千石返し(せんごくがえし)…海から吹き上がる波柱が、遥か上空まで相手を吹き飛ばす。
○五百重波(いほへなみ) …五百の波を連続でぶつける大技。衝撃で相手を粉々に砕く。
○千重波(ちえなみ) …千の波を連続でびつける大技。衝撃で相手を粉々に砕く。
貝類は入水管という器官から吸いこんだ藻やプランクトンを食べ、その際一緒に吸い込んだ余分な海水を、出水管から外に吐き出す。この出水管から水を噴射し、その勢いで移動する貝類も見られる。吹螺坊の本性であるホラ貝も出水管を持っているので、こうした能力を備えているのである。
いずれも千年鍛えたものであるので、サーヴァントの宝具と打ち合えるだけの力を有する。舟虫草履の機動力で地を素早く駆け、衣から伸びる蠢く蛇昆布が相手を拘束。瑠璃珊瑚の剣で切り捨てる…という戦法がセオリー。これらに潮鉄砲や海妖使役を混ぜたスタイルが、吹螺坊の普段の戦い方である。
しかし相手を強敵と認めた場合は、波術や外法力を使用する。
【海妖たち】
○舟幽霊…溺死者の霊。彼らの言うまま柄杓を貸してしまうと、船を沈められてしまう。
○フナシドキ…船内にまで進入する人食い怪魚。小判ザメが正体とか。
○海坊主…巨大な真っ黒い坊主頭の怪物。メジャーな海の妖怪。
○平家蟹…壇ノ浦で戦死した平家の怨霊が人面の蟹と化したもの。
○ムクリコクリ…蒙古高句麗。元寇の際に水死したモンゴル兵や高麗兵の亡霊。
○牛鬼…頭が鬼で体は蜘蛛のような凶暴な妖怪。ヤドカリが正体であるという説がある。
○虚空太鼓…波間から聞こえる太鼓の音の怪異。筋肉隆々の鬼のような姿。
○磯撫で…巨大な怪魚。その尾ひれで船上を一撫でし、落とした船員を食う。
○巡海夜叉…魔海龍王を崇める魚人族。別名をディープワン。
○河童の正吉…正確には海童。海の妖怪では伝説級の存在らしいが…。
この龍は魔術で言う所のエア・ゴーレム、あるいはガスストーカーのような気体状の擬似生命体であり、その身体は空気震動による音の波で構成されている。吹螺坊の笛の音の命じるままに敵に襲いかかり、牙とカギ爪で五体を微塵に引き裂くのである。
波間に響き渡る法螺笛の音は、死の誘い。聞けばすぐに漁をやめ陸に戻るべし。漁師達の古くからの言い伝えである。
松浦静山の 『 甲子夜話 』 や武井周作の 『 魚鑑 』 にいわく、深山の土中には巨大なホラ貝が棲んでおり、これが三千年かけて大地の精気を吸うと、大規模な山崩れと共に土中から飛び出してくるという。これを法螺抜けと称する。
明治五年、西日暮里の道灌山にて爆音と共に斜面が崩壊し、大きな穴ができるという事件が発生。これが噂の法螺抜けか…と人々は噂しあったが、これは幕末に彰義隊が隠した大砲の弾丸の暴発であったという説がある。
また江戸時代に法螺笛を吹く山伏たちが、 『 各地の洞窟はホラ貝が地中から飛び出して出来たもの。ゆえに洞(ほら)という 』 と言う伝説を吹聴し、そこから突飛な嘘を指してホラを吹く…と言うようになったとか。民明書房じゃないよ!
竹原春泉の奇談集、 『 絵本百物語 』 には 『 出世螺(しゅっせぼら) 』 と呼ばれる妖怪が記載されている。 深い山の土中に住むホラ貝が山に三千年、里に三千年、海に三千年住むと、その末に巨大な龍へと化身する…というもの。 山から出世螺が抜け出た跡は 『 出世洞 』 と呼ばれ、上記の法螺抜け…とはまさに出世螺の移動なのである。
伝承の通り、ホラ貝が天地の精気を集めて龍と変じるには、三千年を越える夥しい年月を要する。 しかし吹螺坊は生前、遣唐使の僧侶として中国で入手した外法の経典 『 妙法虫声経 』 から得た知識により、これを短縮する術を心得ていた。 天地の気だけではなく、星々の彼方から送られる邪気や、生贄にした人間の精気を吸収するのである。 蓄積された力は身の内で渦巻き、既にもう後わずかで龍化は成る。聖板戦争のドサクサに紛れて大量殺戮を果たし、 その怨念から生ずる邪気を浴びて、彼は魔龍となるのだ…。。
 『 龍燈 』 とは日本各地に伝わる怪火の一種で、主に海中から出現するものを指す。海の底に潜む龍神が灯す炎とされ、西洋においてセントエルモの火…と呼ばれる海の怪火と同種の存在と言えるだろう。
吹螺坊の物語については、詳細参照。
【セリフ】
 『 何ゆえ斯様な真似を致すとな。…さても異な事を申すわっぱよ。あやかしが人に災いをなす事に、なんぞ理由がいるかの? 』 
 『 東西南北―――四海の龍宮にはおのおの龍王あり、世の海を統べいたり。
されど遥か南方には四海いずれにも属さぬ魔海あり、その底の九頭龍宮にはいと貴き大海妖がおわす。
その名は魔海龍王・克蘇龍。人が生じるよりも古の頃に、遠き星辰の彼方より舞い降りたもうた大いなる魔性よ。
このワシが未だ人の身にあった頃に手に入れた、唐国五台山に蔵されし外法の経典…妙法蟲声経。
これを修めれば我が師最澄は言うに及ばず、あの空海上人すら上回る験力を得れたは必定のこと。
密かに封を解き盗み、日本に持ち帰ったが…おお、忌まわしや!!我が才と栄達を妬む、あの円仁めが!!
東海龍王傲広を勧請し、この経典の事を告げ口しよった!
・・・・魔海の主、克蘇龍の覚醒を恐れた東海龍王の力で、海は荒れ嵐は吹き、船は沈んだ。
帰国し、仏法の大成者とならんとする我が望みは波の一抹と消えた…。
口惜しや、口惜しや…!この千年の恨み、何者にもわかってなるものか…! 』