修行を重ねる事で妖怪としての格が上がり、その実力は既に妖怪仙人である 『 妖仙 』 の域。 そしておそらくは日本妖怪界で唯一のキリスト教徒であり、西洋魔道を修めた魔術師でもある。
レコンキスタの煽りを受け、スペインを追い出されたユダヤ人子孫(セファルディム)らが伝えたカバラは、当時ヨーロッパ各地のキリスト教徒にクリスチャン・カバラとして広まりつつあった。また当時強国であったスペインの圧政に対抗する為、支配を受けていたオランダやイタリアの魔術師達は魔術を用いて戦いを挑んでいたのである。その中でも有名なのが師であるデッラ・ポルタから自然魔術と カバラを伝授されたドミニコ会修道士、トマソ・カンパネッラ。わずか数年の間ではあったが、 宗意軒は彼と行動を共にしその魔術と革命精神を学ぶ。この魔術による民衆革命思想の影響が、後に遠く離れた日本にて島原の乱を起こす遠因となる…。
宗意軒はカバラからは魔力流出とネクロマンシーと簡易なゴーレム生成を、自然魔術からは熱操作魔術を学ぶ。特に熱操作による発火術は得意とする所らしく、 森宗意軒の逸話・キュウモウ狸の逸話、双方に火を自在に操った事が伝えられている。
魔術発動ワードは 『 ナムサッタルマグンダリギヤ 』 。
高次元からの神性流出による創造を説く、カバラの教義をそのまま形にした魔術。また固有結界や通常の結界などの位相差のある空間に穴を開け、これを破る効果も持つ。
その媒介に使うのは尻尾から発射される毛針と、それを強化した魔杭である。
サーヴァント自身やその宝具のように、あまりに膨大な魔力が凝集された魔力体を消滅させるには、複数の魔杭を打ち込んで魔力を流出させる必要がある。また流出による副次効果としての魔術阻止・妨害であるので、あくまで発動そのものを阻んでいる訳ではなく、発動後に直ぐ力を失って減衰→消滅という流れ。
余談だが、国巣キャラである目取真・法子らが第四次聖板世界から第五次聖板世界へ移動した時に使用した 『 次元回廊 』 は、宗意軒がこれを使って以前に開けた穴である。
自然魔術とは、古代ギリシャ自然哲学の影響下から生まれた四大属性魔術をベースに、カンパネッラの師であるデッラ・ポルタがカバラを加えて編み出した魔術体系である。世界霊魂(精霊)に働きかけ自然を操作する術だが、太陽崇拝者である弟子のカンパネッラは特に熱操作に重きを置き、火属性魔術の部分を発展させた。彼の弟子である宗意軒もまた、火術を得意とする。
タヌキマリオなのにファイヤーマリオとはこれいかに。
鄭芝竜はこの流派以外にも洪拳(洪家拳)の刀術を学んでおり、片手に日本刀、片手に中国の胡蝶子母刀を持ち、剛の一閃で相手を叩き斬る日本剣術と、華麗で軽快な中国刀術を組み合わせた独自の剣法を使用していたという。
ちなみに宗意軒の所持する刀は同田貫。たぬきだけに。
彼の出生である妖怪狸の一族は、タイプムーン的に解釈すると人狼のような魔獣・獣人の一族である。長い歴史の中で人を化かす怪異と怖れられ、安住の地である四国に来るまでは迫害を受け続けてきた。そんな歴史を親狸から聞かされて育った事もあってか、彼の胸の内には弱き者を虐げる集団権力への義憤が燃えている。
…しかし彼は気づいてしまった。自分が今所属している警察機構が、弱者を虐げる側のものである事を。
穴を開ける高次元の種類によって威力と効果が変わるが、大抵はカバラのセフィロト上位階から漏れ出す無限光(アイン・ソフ・オウル)か、もしくは星の表面を覆う 『 織物 』 世界の裏側から漏れ出す神代の高濃度エーテルによる攻撃である。
強力な術だが、敗れた次元壁を修復するのに大きく力を使う為、気軽に使用したくはないようだ。
収斂(ツィムツム)は16世紀パレスチナのカバリスト、イサク・ルリアの提唱した概念で、無限の存在たる神が創造に先立って我が身を点状に収縮させ、生じた無の余白に天地を創ったという奇跡を指す言葉。
宗意軒の使用する術の中で最強の威力を誇る切り札。これをもっと早く修得していたら、島原の乱でも幕府に負けなかったのに…とは本人の弁。
容器の破壊(シェヴィラー・ハ・ケリーム)は16世紀パレスチナのカバリスト、イサク・ルリアの提唱した概念で、流出した神性を受け止めきれない器=セフィロト(生命の樹)の階層が弾け飛ぶ様を指す言葉。現世に散らばったこの器の破片が文字となり、カバリスト達に啓示を与えるという。
修復(ティクーン)は16世紀パレスチナのカバリスト、イサク・ルリアの提唱した概念で、破壊によって散らばった生命の樹の階層の破片を修復し、それに付着した痕跡から神の光を再現する行いを指す言葉。
術名は奈須きのこ氏も影響を受けたという、あまりに有名な山田風太郎の同名伝奇小説から拝借した。小説内においては宗意軒の手によって宮本武蔵、柳生宗矩、柳生利厳、宝蔵院胤舜、田宮坊太郎、荒木又右衛門、天草四郎などが黄泉より蘇生させられ、魔人となって柳生十兵衛と対決する。こちら聖板の宗意軒はそこまでの顔触れを蘇生させるのは無理だが、彼のキリシタン仲間の内で最強であったジュアン、ニコラスの両名を蘇生させ小一時間ほど使役する事ができる。
【魔界転生衆・明石ジュアン】
ジュアンは洗礼名で、本名を明石 全登(あかし たけのり)。戦国時代のキリシタン武将。
宗意軒が小西行長と宇喜田家に仕えていた時からの友人。関ヶ原では宇喜田家家臣として西軍に属し、目覚しく奮戦したが敗れて浪人となる。暫くは宗意軒と共に同じキリシタンである黒田如水に匿われ、大阪の陣が起こると豊臣方につき、獅子奮迅の働きを見せる。
その後の消息は不明で幾つかの伝説が残るのみだが、実は生きており宗意軒と共に台湾へと落ち延びていた。最期はキリシタンが自由に暮らせる国を夢見ながら、清国との戦いで討ち死にする。
竹内流柔術、片山伯耆流居合術の達人。
【魔界転生衆・ニコラス一官】
ニコラスは洗礼名で、本名を鄭芝竜。台湾の英雄 『 国姓爺 』 鄭成功の父で海賊の頭領。
漫画ワンピースに登場する雨のシリュウの名前の元ネタ。
元は宗意軒がヨーロッパから帰国する際に船の手配をしてくれた友人・中国人貿易商の李旦の部下であった。同じキリシタンとして若い頃から仲が良く、島原の乱で仲間を失い失意の底であった宗意軒を呼び寄せ、明石ジョアンと共に清国へのレジスタンス運動の仲間に迎える。明の国を復興した後はそこをキリシタンの楽園としようと夢想していたが、圧倒的な清の軍事力の前に屈服し投降。後に処刑された。
日本の平戸に住んでいた時に修得した二天一流剣術と、中国の洪拳刀術の達人。
第三執同僚である円谷と共に、同じく同僚である丹羽の不審な行動を密かに調べていた所、彼が霊薬を使用して一時的に人間の肉体を変質・狂暴化させ、無実の人間を人為的に理外犯罪者に仕立て上げている事実を知る。
更に調査の結果、丹羽は政財界の大物が集う会員制の秘密クラブに通じ、複数の力の弱い混血や妖怪を彼らクラブの者達に提供している事を突き止めた。
たかが一警察官にこれほどの真似はできない。必ず背後に、警察上層部に黒幕がいる。
円谷は同僚も信用できないとし、この事は二人だけの秘密、隊長の緋賀には自分から報告しておくと語った。
そして捜査中の森は図らずも――――それとは知らず、その秘密クラブの現場に踏み込んでしまうのである。
そこで彼が見た光景は…。
美しい妖精、女神の末裔、女妖怪…あるいは丹羽によって怪物化させられた、元人間女性。
理外犯罪者として刑務所に収監され服役中のはずの彼女らは、皆クラブ員達の性的倒錯の嬲り者にされ、酸鼻極まる生き地獄を味わわされていた。
人を越えた美しさを持ち、高い生命力を持つ娘達は、彼らの嗜虐心を満たすのにうってつけの相手であったのだ。
これを目の当たりにした森は、かつて虐殺された隠れキリシタンの同胞の姿が脳裏を過ぎり、激昂し丹羽を含むクラブ員を殺害してしまう。
…その中にはかつて総理を務めた大物政治家、日本有数の大企業の会長、宗教団体教祖、警察幹部など総々たる面子が揃っていた。数百年ぶりに思い出した権力者への激しい憎悪、しかし後には引けない事をしてしまった…という後悔で森は苦悩する。
その上奇妙な事に、この事実は直ぐ様に公安の知る所となり、森は凶悪な理外犯罪者として手配される事となった。そんな彼の前に同僚の二人が姿を現す。円谷、勘解由小路の両名である。
森は彼らと戦うつもりは毛頭なかった。殺人を犯したのは事実、せめて仲間の手で逮捕され、法の裁きを受けよう…と考えたのである。観念し、神妙に両手を差し出す森だったが…返ってきたのはなんと、耳を疑うような下品な哄笑であった。
 『 ウヒャヒャヒャ!! 甚尾大王と怖れられた化け狸が、なんとも哀れな体たらくよ。 』 
 『 おおよ、なにキツネに抓まれたような顔してやがる。おい、あたしだよ。忘れたのか? テメェのダチの顔をよ! 』 
驚愕する森の目の前で、二人は妖怪としての本性を現した。 『 海法師 』 吹螺坊、 『 石投娘 』 夜行天女蘭麝。いずれもかつての妖怪仲間として共に肩を並べ、襲い来る退魔師達と戦った二人であった。確か彼らは自分と同じく人との争いに敗れ、封じられたと聞いていたが…。
 『 おお、そうよ。忌々しい事にこの数百年ばかりな。だがどっかの阿呆が、この警邏隊の戦力強化の為に…とかぬかしてあたしらの封印を解きやがったんだ。 』 
そういえば確か、この両名は警察上層部…警備局長推薦での入隊だったはずだ。では延暦寺から来た、だの巫女だとかいう経歴はすべて捏造か。しかし自分も力を封印されているとは言え、かつての仲間が同僚だった事にまったく気づかなかったとは…。
 『 三百年前より人間どもは少々腑抜けたようじゃ。今この身を縛る封印術式なぞ、この吹螺坊にとっては何の意味も持たぬ。どれ、お主の封印も解いてくれよう。…戻るのじゃ、あの頃の大妖にのう、キュウモウ…。 』 
二人は早々に封印解呪の法を発見していたが、人間の生活が楽しくなってきた蘭麝がもう少しだけこのままで…と渋ったので、吹螺坊もしょうがなくこれにつきあっていたのだった。
 『 聖板戦争とやらになァ…退魔師の猛者どもが出るらしい。連中に吠え面かかしてみたくなってよ。そうなりゃもう、こんなチマチマしたお役所仕事なんざ用はねぇわけだ。 』 
ギラギラした眼差しを見せた蘭麝が獰猛な笑みを浮かべる。ああ、こいつは本当に戦狂いの奴だった。そうだ、思い出したぞ。
 『 わしはもっと早うに妖に戻り、一暴れしたかったんじゃ。じゃが蘭麝がその気にならんかったし、キュウモウ、お主もすっかり人の暮らしなぞに染まっておったからのう。…此度の事はよい機会じゃ。人の世に別れを告げる、な。 』 
何度も見ただろう、人間の醜い本性を。美しき者は皆儚く死んでゆく。後に残るはただ生き足掻く獣のみ。復讐だ、復讐だ。警察を滅ぼせ、国を滅ぼせ、人を滅ぼせ。驕る者達に上位者の存在を教えてやれ。
実りてもなお頭を垂れず、天に角突く稲穂なぞ、もはや刈り取ってしまうがよい。吹螺坊の目が妖しく輝く…。
森の目頭に幾つもの顔が浮かんだ。小西行長。ジュリアおたあ。カンパネッラ。天草四郎。一揆を起こした村人たち。剣を振う退魔師、不破康太郎、緋賀郷一郎、第三執の同僚達…。
彼らの姿が朧げに掻き消えてゆく。―――――そして、森 宗広は再びあやかしへと戻った。
【セリフ】
 『 不破のジジイよォ。あんたにゃ随分世話ンなったのに、不義理な真似しちまってカンベンだぜ…。だがな、俺ァやっぱコッチ側みてェだわ。 』 
 『 人じゃねェ俺ァ、みんなのいるハライソにゃ行けねェ。カチカチ山よろしくインヘルノの火にくべられるのが似合いの末路よォ。 』 
 『 ケケケ、尻の青い狐娘なんぞ、束になって来ても怖かねェや。 』 
 『 この臭い…テメェ、犬神かァ? 昔から犬にゃ弱ェんだ。タヌキだからよう。 』 
 『 怪異の為に人を裁くだァ…? へッへ、気に入ったぜアンタ…手ェ組まねェか?  』 
 『 アダムカドモン…カバラの到達点、物質の頂たる賢者の石に対する人の頂…。それをサーヴァントにするとはなァ。 』 
 『 し、シメオン様? 黒田様じゃねェか! ここ、このような所で何をなさってるんで…? え、一考の鯨井のサーヴァントってマジかよォ!! 』 
 『 …主よ、弱き我が身をお許しください…。エイメン…。 』